『 雪祭にて ― (2) ― 』
ぴちゅ ぴちゅ ぴちゅ ・・・・
窓の外から 可愛い声が聞こえてくる。
ほんの少し 上げてある窓の下から柔らかい風がそろり、とレエスの
カーテンを揺らす。
・・・ いいきもち ・・・・
ほんわか 温かくて ・・・ ふわふわ
鳥さんの声 ・・・
あら いつもの スズメさん達 と ちがう・・?
新しい小鳥さん ・・・?
ゆらゆら・・・レエスの向うからは 薄い陽の光が顔を見せている。
その床に落ちる影を 彼女は しばらく眺めていたが
「 ・・・ いい香り ・・・ ここ ・・・は
あ れ ・・・・? わたしの部屋 ・・・? 」
フランソワーズは ぼう・・・っと眺めていた床が いつもの色とは
違っていることに 気がついた。
「 わたしの部屋の床・・・ アイボリ―・ ホワイト ・・・
のはず よね ・・・? お気に入りの絨毯なのよ ・・・
あら。 壁紙って ・・・ こんな模様だった・・・? 」
かさり。 枕の上で首をめぐらせ やっと部屋の中の情景に気づいた。
え。 ここ。 わたしの部屋 じゃない?
手をついて起き上がったが ― ほわほわの羽根布団に埋もれそうになった。
「 うわあ ・・・ え なに なに〜〜 これ??
わたし いつも軽いブランケットで寝てる はず・・・
え えええ?? いつものパジャマじゃない???
・・ なに これ ?? 」
広いベッド ― いや それは < 寝台 > と呼ぶべき豪華なものだったが
― で 彼女は自分自身の姿に 目を丸くした。
身につけているのは たっぷりと膨らんだ袖にレースがひらひらと縁取っていて
立ち上がれば おそらく裾を長く引くにちがいない ・・・ ドレス??
白く輝く生地は ほんわりと温かく絹であることは すぐに察しがついた。
しかし ドレスにしてはゆったりと身体を包んでくれている。
「 ・・・ うっそ ・・・。 わたし どうした の?? 」
そうっと両手で顔をなでてみたけど ― これはいつもと同じ手触りだった。
「 ・・・ よかった・・・ わたしは わたし ね・・・
でも でも ・・・ ここは ここは どこ?? 」
― カチャリ。 寝台からかなり離れたところでドアが開く音がした。
「 こんこん。 お目覚めになって? おねえさま 」
細い声がきこえ軽い足音がして ― カサリ。 軽い衣擦れの音がした。
「 あ お目覚めね! 」
ひょこん。 フランソワーズの前に 緑の瞳をした少女が現れた。
「 ・・・ あ ・・・ あの 」
「 あ ごめんなさ〜〜い びっくりさせてしまったわ 」
「 ・・・い いえ あの・・? あなた は ? 」
「 わあ〜〜 お母様に叱られちゃう〜〜〜
ね おねえさま ナイショにしてね エミリエンヌが
お客様のお部屋に こっそりうかがったってこと ・・・ 」
「 え ええ ・・・ エミリエンヌ さん とおっしゃるの? 」
「 そうよ! エミリって呼んでください。 」
「 エミリさん ・・・ あ わたしは フランソワーズ ・・・ 」
「 フランソワーズさん! すてきなお名前〜〜 」
少女は 寝台のすぐ横にへばりついている。
緑の瞳に ピンク色の頬 ・・・ 銀の巻き毛が豊かにその顔を
縁取っている。
床に近い丈のドレスだが 子供用らしくゆったりとしている。
元気なコね ・・・ 10歳には なってない?
可愛い ・・・ 将来 美人になるわね〜〜
・・・ あら それにしても古風な服だわ
レースやフリルがふんだんに使ってあって
でも暖かそうで ちゃんと子供向けにゆったりとしてて・・・
でも でも ここは どこ???
「 フランソワーズおねえさま。 ご気分はいかが??
昨夜は よくお休みになれましたか 」
「 あ あのう エミリエンヌさん。 ここは どこなのですか
それに わたしは どうして ・・・? 」
「 え ・・・ 」
一瞬 少女はとても驚いた表情になった。
なにか 思っていたことをまったく覆された という顔なのだ。
「 あ あのぉ〜〜 ここは アッシャアの城で ・・・
私のお家なの ・・・ 」
「 アッシャアの 城・・・? お城 なの??? 」
「 ええ ・・・ あの おねえさまは 招かれた方 では ないの? 」
「 まねかれた ・・・? いいえ ・・・? 」
「 そう ・・・なの? あ でもお父様がお呼びしたのかしら 」
「 ・・・・ 」
少女は 不思議そうに首を傾げているが ― 怯えている様子は ない。
不思議なのは わたしの方だわ
ここは ― ああ なにも覚えていない ・・・
のんびり寝ている場合じゃあ ないわね!
それに ― ずっと聞こえている あの音は なに??
ぶう ・・・・ ん ・・・ ぶう ・・・・ん
それはごく微かな音なのだが 目覚めた時からずっと聞こえている。
まるで耳の奥に流れる血流の音みたいに・・・
「 ごめんなさい わたしったら・・・ 寝たままで失礼よね
ちゃんと起きます 」
フランソワーズは ゆっくりと身体を動かし寝台から 降りる姿勢をとった。
「 あ あら おねえさま お起きになってだいじょうぶ?
お茶が来るまで ゆっくりしていらっしゃれば? 」
「 ・・・ お茶? 」
「 ええ そうよ。 お父様もお母様も エミリも
毎朝 ベッドで 朝のお茶をいただくわ。
それから お着替えするでしょう? 」
「 ・・・ それが ・・・・ ここの習慣なの ? 」
「 しゅうかん ってなあに 」
「 あ 毎日 やっていること 」
「 ええ そうよ すぐにここにもエマがお茶を運んでくるはずよ 」
「 ・・・ えま?? 」
「 そうよ エマはねえ アタシのナンニー ( 乳母のこと ) でも
あるから・・・ お行儀にはきびしいわ 」
カチャリ。 カタン ― 部屋のドアが開いた。
「 失礼しますね ・・・ あらら エミリ 」
しっとしとした婦人の声が聞こえた。
「 ! お お母様〜〜〜〜 」
その声に少女は 弾かれたみたいにベッドから離れた。
「 まあ 御客様のお部屋に勝手にお邪魔して 」
「 おかあさま・・・ ごめんなさい 」
母娘とおぼしき二人の会話が 部屋のドアの側から聞こえた。
「 ・・・ あの ?? 」
フランソワーズは ふわふわの布団を押しのけようやっとベッドから
抜け出した。 ・・・かなり苦心してしまった。
うわぁ ・・・ なんなの〜〜〜〜
わたし 生地に溺れるかも・・・
思った通り 身にまとっている寝間着とおぼしきモノは床に裾をひく
ガウンにも似た服だったのだ。
彼女は 懸命に < 脱出 > した。
ばさばさ・・と あわてて身仕舞を整えた。
やっば〜〜〜 これ 寝間着 なのよね?
寝間着で 初めて会うヒトの前に立つ・・・って どうよ〜〜
「 ・・・ あのう ・・・ この小さなお嬢様の
お母様で いらっしゃいますか 」
ドアのところには 褐色の髪を結いあげた上品な婦人が
佇んでいた。
「 あらあら ・・・ 失礼しました。
ご気分はいかがですか? わたくしは城主の妻 ・・・
このアッシャア城の 女主人です。 」
「 マダム・アッシャア ・・・・? わたしこそ失礼しました。 」
フランソワーズは 腰を屈め丁寧に挨拶をした。
「 フランソワーズ・アルヌールと申します ・・・
あの ここはお城なのですか 」
「 マドモアゼル ・・・ どうぞ 寝台にお掛けになって。
動かれても 大丈夫ですか 」
「 あ はい ・・ あの・・・わたし ・・・ 」
「 貴女は昨夜 < 外 > で遭難しかけて・・・
白い魔物たちが荒れ狂っていましたからね 」
「 白い・・・? 」
「 お連れの方が この城に助けを求めていらしたの。 」
「 ・・・ 連れ ・・・ わたし の ? 」
「 はい。 貴女のお約束の方ではありませんの?
その指輪 とてもお似合い 」
夫人の白い手が そっとフランソワーズの手に向けられた。
「 え ・・・? 」
自分自身の左手の中指に視線が落ちた。
・・・ !
指輪 なんてはめていた? わたし・・・
ああ とてもキレイだわ
赤い石を頂いた指輪が ちかり、と光る。
「 ね その方がお迎えにいらっしゃるまで ゆっくりなさって? 」
「 そうよ〜〜 おねえさま! エミリの花園をご案内するわ 」
「 まあ ありがとうございます・・・・ 」
この指輪 ・・・
見つめていると とても幸せな気持ちになるわ・・・
でも。 わたし こんな指輪 持っていた?
これは ・・・ 誰からもらったのかしら・・・
「 この季節、< 外 > に出てはいけませんわ。 」
「 ・・・ ここは このお城は・・・ とても広いのですね 」
「 ええ。 代々アッシャア家が統治しています。
安心なさってご遠慮なくご滞在くださいな 」
「 あ ・・・ ありがとうございます・・・
あのう ・・・ ここは北欧に近い位置なのでしょうか 」
「 え ? ほくおう・・・? 」
キー ・・・ ン ・・・
なにか鋭い音が フランソワーズの耳に奥で鳴った。
「 ・・・ ! い た ・・・ ! 」
彼女はアタマを押さえ その場に座り込んでしまった。
「 ・・・ さあ ゆっくり・・・寝台に戻られて・・・? 」
マダム・アッシャアは そっと彼女の身体を支えてくれた。
「 ・・・ す すみません ・・・ あの急に頭痛が 」
「 どうぞゆっくりお休みになって・・・ さあ
まだ 動いてはいけません。 」
「 はい ・・・ 」
彼女はもう一度 寝台に戻った。
「 ね 温かいお茶をお持ちしましたの。
これを召しあがって ゆっくりなさってくださいな。
白い魔物たちの毒を抜くのは それが一番です 」
「 魔物たちの どく ・・・? 」
「 ええ そうよ。 身体中が冷えて固まってしまいます。
ああ エミリ? エマにトレイを運ばせて? 」
「 はい お母様 エマ〜〜〜 」
少女は身軽に ドアの方に駆けていった。
カチン カチャ カチャ ・・・
すぐにいい香りの湯気が立ち上るカップが用意された。
「 さあ どうぞ。 そして しばらくお休みなさいな 」
「 ・・・ はい ああ いい香りですね ・・・ 」
「 この城で栽培している極上の薔薇です。 これを飲めば
白い悪魔の爪の跡はたちまち溶けて消えます。 」
「 ・・・・ はい ・・ 」
フランソワーズは素直にカップを口に運んだ。
ほわ〜〜〜ん ・・・・
馥郁たる香は 彼女の鼻孔をくすぐり そして温かいお茶とともに
ゆっくりと身体の中に落ちていった。
「 ・・・ ああ 美味しいです ・・・ 」
「 まあ よかった。 さあ もう少し御休みなさい。
エミリエンヌ もうお邪魔をしてはダメですよ 」
「 はあい お母様。 フランソワーズお姉さま ・・・
はやくお元気になって! エミリ 花園をご案内するわ 」
「 ほらほら おしゃべりはお終いよ。
ああ カーテンを引いておきましょうね。
次にお目覚めの時には この鈴を振ってくださいね 」
マダム・アッシャア は 金色の鈴を寝台の横に置いた。
「 あ はい ・・・ ありがとう ございます・・・ 」
ふんわり ととても心地よい眠気が 彼女を絡めとる。
「 さあ ゆっくりお休みなさい ・・・ 金色の髪のマドモアゼル
眠りは白い魔物の爪痕を 消し去ってくれます。
お連れのムッシュウも もうすぐお迎えにいらっしゃるでしょう ・・・ 」
返事をしなければ・・・ と思うのだが
フランソワーズは 目を開けていることができなかった。
・・・ やさしい声 ・・・
このヒトは だあれ
ああ どうでもいいわ
こんなに気持ちがいいのですもの
ふわふわ ・・・ 雲の中みたい
あ。
わたし なぜここにいるの ・・・?
< お連れのムッシュウ > ?
わたしを 迎えにくる ・・・ ヒト・・・?
え。 ・・・ アナタは だあれ ・・・
眠りの淵に落ち込みそうな自分を じっと見つめている人物に気づいた。
温かい眼差し ― あれは。
大地の色の瞳が 彼女を優しく包む。
・・・ お兄さん ・・・?
ちが う ・・・ けど ・・・
とても優しくてなつかしい わ
アナタは わたしは だ れ ・・・
ぶうん ・・・・ まだ あの低い音が 耳の底にかすかに響く。
・・・ ああ また・・・
この音 ・・・ ずっとずっと・・・
・・・ あ ああ ・・・ 眠い ・・・
すとん。 眠りは完全に彼女を取り込んだ。
****************
ザザザザ −−−− ザクザクザク ・・・
ジョーは かなりのチカラを込めて雪の中を歩いてゆく。
「 ・・・ なんなんだ この豪雪は???
サイボーグとしての機動力で歩いても ・・・ これは〜〜〜 」
幸い 吹雪は小康状態だったので 彼は雪を掻き分け踏みしめ・・
なんとか目的地まで 戻ってきた。
「 あ ・・・ ああ ホテルが見える! はあ〜〜〜 」
≪ おい 009! どこだ! ≫
安堵した途端に 脳裏に鋭い < 声 > が入ってきた。
≪ ぜ 004? ≫
≪ どこにいる? 座標を送れ! ≫
≪ あ ああ もうホテルの目の前だよ 大丈夫 ≫
≪ おい フランは!? 彼女も無事か! ≫
≪ あ う〜〜ん たぶん ・・ ≫
≪ たぶん???? なんだ それはっ ≫
≪ ・・・ がんがん怒鳴らないでくれよぉ 今 ホテルに入るからさ ≫
≪ このぉ! ≫
ぶちっ! 音をたてて004からの脳波通信はキレた。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ 」
ジョーは ふか〜〜〜いため息を吐きつつ ホテルのゲートを潜った。
004をさ 怒らせると ・・・ 厄介なんだよなあ
・・ 特にフランのことが絡むと・・・
あ〜〜 コワ ・・・
ドタ ドタ ドタ ・・・・
スノー・シュー を引きずりつつ ジョーはホテルの玄関までやってきた。
「 ・・・ ハロ ー ・・・ 」
ガタン。 重いドアを開け ―
「 ! はやく入れ! 」
「 うわ!? 」
恐ろしい勢いで腕を掴まれ 中にひっぱり込まれて。
「 はやく閉めろ。 吹雪が入る 」
「 う うん ・・・ 」
ジョーは 慌てて外玄関のドアを閉じた。
「 あ〜〜〜 ・・・ 」
思わずため息が漏れる。
「 ! おい! フランソワーズは!? 彼女はどこだ 」
「 ・・・ あ ああ アルベルト ・・・
案外早くこられたんだねえ 」
「 おい なに暢気なこと、言ってるんだ! フランは!? 」
「 あ うん ・・・ とりあえず安全なトコにいるよ 」
「 安全なとこ? 途中にヒュッテでもあったか? 」
「 いや 城壁が 城があったんだ え・・・っと・・・
なんとかって伯爵がいて ・・・ アッシャア?? 」
「 なに寝ぼけてやがる?? ポーの小説じゃあないんだ 」
「 え 小説?? ・・ 知らない・・・ 」
「 お前なあ〜〜 少しは本を読め!
あ いや その城が ・・・ あるのか この付近に 」
「 うん。 すっげ〜〜 デカイ城壁があってさ
ぼくら なんとかそこに避難してたんだ。
あの城壁に行きあたらなかったら かなりヤバかった・・・
うん 吹雪を軽くみてはいけないねえ 」
「 おいおい ・・・ もうちょっと仔細を話せ 」
「 話すよ 話すからさ〜
ちょっと座らせてくれよ ず〜〜〜っと雪の中をごそごそ
歩いて来たんだ・・・ 足先が凍ってる・・・ はあ〜〜
」
「 ふん! 最強のサイボーグがなに寝言いってるんだ!
ああ ・・・ 人目もあるからな・・・ ロビーの隅にゆこう 」
「 ああ 助かった〜〜 」
「 おい! ちゃんと雪を落としてこい。 そこいら中 水浸しだ 」
「 あ・・・ ごめ・・・ 」
ジョーは ホテルの玄関の外のポーチに戻り 雪を払い落した。
カチン。 ホールのスタッフが湯気のたつカップを置いた。
「 どうぞ? 外は大変だったでしょう? 」
「 あ ありがとうございます〜〜 うわ〜〜〜 」
ジョーは カップを両手で持ち歓声を上げた。
アルベルトに連れられて ロビーの奥、大きな暖炉の前に
とりあえず 二人で座り込んだ。
この暖炉はちゃんと機能していて、ぱちぱちと燃える薪からの炎が心地よい。
「 ふん ・・・ しっかり飲め。
それで ― 彼女をその城に預けてきた ってわけか 」
「 ウン。 大きな城でさ すげ〜〜城壁があって・・・
城主の伯爵も ちゃんとしたヒトっぽかったし 」
「 ふん ・・・ この吹雪だ、その判断は妥当だな。
それでその城の位置は 」
「 それが ― 城を出てすぐに記録したんだけど 」
「 ?? 出てから とはどういうことだ? 」
「 ウン・・・ その城壁の中では GPSが起動しなかったんだ 」
「 有り得ないだろうが 」
「 そう思うけど でも ― メカ部分はほとんど停止していたよ 」
「 お前のが バグったんじゃねえのか 」
「 初めはぼくもそう思ったさ けど・・・
身体中のメカ部分はほとんど起動しなかった。
生命維持装置は なんとか動いてたけどね 」
「 ということは フランソワーズも か 」
「 おそらく。 ほとんど意識不明だったんだ 」
「 ― 生きているだけ ということか 」
「 ・・・・ 」
「 まさか夢でも見てたってワケじゃなさそうだな。
その城というのは この地域に存在するのか 」
「 だってぼくらはそこに居たんだよ!
中は ・・・ 冬じゃないんだ。 雪はなくて 温かい。
そうだ すごくいい香のお茶を飲ませてもらったよ ・・・
あ バラだ! 」
「 ばら? 花の薔薇か 」
「 ウン。 バラのお茶だって・・・ 薔薇を作ってるって 」
「 おいおい 本当に夢でも見てたんじゃないのか 」
「 だって本当だよ! 本当に その伯爵が言ったんだ
代々バラを作ってるって。 ちょっち古めかしい服だったけど・・・
使用人もたくさんいて さ 」
「 ・・・ なんだか俺の方が眩暈がしてきた ・・・
お前 日本の少女漫画でも読んだのか?? 」
「 マンガ? ちがうってば 本当なんだってば! 」
珍しくジョーが 大きな声を出した。
「 いや ・・・ すまんな。 あまりにその・・・
荒唐無稽というか 不思議なので 」
「 お客さん。 その城は ― ヨツンヘイムの入口 じゃな 」
「「 ・・・え??? 」」
アルベルトもジョーも 思わず顔を上げた。
暖炉の側で 薪を足していた老人が ぼそり、と言ったのだ。
この暖炉は本格的な造りで かなり大きい。
昔からこの建物に設えてあるのだろう。
勿論 ホテル全体には暖房が効いているが 観光客向けというか
冬の風物詩として 毎年暖炉を焚いているらしい。
「 ・・・ あの? 」
「 なにか 知っているのですか? 」
二人は 同時に聞いてしまった。
「 ああ ヨツンヘイムは この世のものじゃあない。」
「 え?? 」
「 この地にあるが この世の城じゃないんだ。 」
「 ヨツンヘイム ・・・ とは たしか北欧神話にでて来ますね 」
「 ・・・ 神話じゃ ねえ 」
「 え ・・・? 」
カチン カチン ・・・
ホールのスタッフが 新しいお茶を運んできてくれた。
「 熱いお茶を もう一杯如何ですか 」
「 あ ありがとうございます ああ うま〜〜〜 」
「 すまんです。 ちょっと伺いますが
この付近にはヨツンヘイム という名の舘でもあるのですか 」
アルベルトは 何気なくスタッフに訊いている。
「 ヨツンヘイム? ああ こちらの地域に根強く残る伝説ですよ
不老不死の楽園、ヨツンハイム ってね 」
「 伝説ですか ・・・ 」
「 そうですよ〜〜 あ もっとお湯を持ってきましょう 」
スタッフは 陽気にワゴンを押して行ってしまった。
「 ・・・ ふん・・・? 」
「 お客さん。 現れるんじゃ あの城が。
こんな日 白い魔物が猛り狂う日にはなあ〜
そして ムスメっこ が消える。 雪の中に消えちまう・・・
雪祭も近いし ・・・ 気をつけるこった ・・・ 」
「 え 」
老人は 深いため息をつくと薪の残りを暖炉にくべ
アタマを振り振り・・・ 立ち去っていった。
「 雪まつり ・・・って 冬のカーニバルのことかな 」
ジョーが ひそ・・・っと口を開く。
「 ・・・ おそらく な。 」
「 行こうよ! フランを迎えにゆく! すぐにさ! 」
「 おい 待て。 慌てて飛び出してもなにもできんぞ 」
「 でも!! 」
「 落ちつけ ジョー。 お前らしくもない 」
「 だって フランが! 」
「 ああ だから。 しっかり現状を把握しないとダメだ。
俺達でも ― この荒天では動きがとれん 」
「 ・・・・・・ 」
ビュウ −−−−−−
外は再び 吹雪が音をたてて世界を真っ白にし始めていた。
Last updated : 08.10.2021.
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*********** 途中ですが
季節外れ話 またまた途中で そして 短くてすみません〜〜
ハナシの都合上 こんなトコで 切りました・・・・
現世は 猛暑でバテバテ ってこともありますが <m(__)m>
もう一回 お付き合いくださいませ <m(__)m>